2007年度公募プログラム
バリアフリー・ユニバーサルデザイン支援の仕組み構築(試行)と
未来先導的リーダー育成の教育プログラムの開発
活動課題(テーマ)
超高齢社会においては、障害者や高齢者を含めた多様な人がお互いの違いに気づき、その差異を認め合って共生していくことが重要である。そのような超高齢社会において、多様な人への高い共感性を持ち、共生をナビゲートできる教養ある未来先導的リーダーを育成することは、我国の未来社会を先導する慶應義塾にとって重要なテーマである。
支援の仕組みと未来先導的リーダーの育成
そこで本プロジェクトでは、慶應義塾における障害のある学生・教職員への「バリアフリー・ユニバーサルデザイン(UD)支援の仕組み構築を目指し、試行プロジェクトを実施」する。更にその仕組みを塾内及び社会展開する「バリアフリー・UDの未来先導的リーダーの人材育成を行う教育プログラムの開発」を行い、バリアフリー・UDに深い理解を持った教養人の育成を行う。ここで培われる能力はグローバル化が急速に進む国際社会において、多様な文化、価値観に気づき、理解し、共に協力して生きる力「協生」にも繋がるものである。
未来を先導する国際的教養人の育成への展開
先進諸国では、米国の改正リハビリテーション法508条、Americans with Disabilities Act(ADA)法に見るように障害者の権利に基づく社会システムが構築されており、また、国連の障害者権利条約等を考慮すれば、未来社会をリードする国際的教養人には、あらゆる社会参加の場面において、バリアフリー・UDの視点を内包していることが不可欠である。さらに本プログラムは障害者、高齢者へのバリアフリー・UDのみならず、様々な宗教、民族、文化への意識のバリアフリー・UDへと発展させていく方向性も備えている。
担当
文学部教授 増田 直衛
協力して生きる力を育み、社会をリードし、世界に通用する国際的教養人「未来先導的リーダー」の育成を行うためのセミナーやワークショップを実施した。また、慶應義塾における障害のある学生への教育支援活動を通して、全塾的なバリアフリー支援体制のモデルを構築した。さらに、バリアフリー・UD (Universal Design)を普及できる未来先導的リーダーとして、当事者の専門家(ユーザーエキスパート)を養成した。
(1) バリアフリー・UD支援の仕組み構築を目指した試行プロジェクトの実施
a) 支援の仕組み/「コーディネート・オフィス」の試行
障害のある学生等の人権を守り、彼らの能力を最大限発揮できるようにするための、バリアフリー・UD支援の実務を全塾的、総合的に試行し、支援の質の向上と安定供給するために、何が必要かを障害当事者と協働で実証的に調査し、仕組みの構築を行い、準備室として「コーディネート・オフィス」を設置して試行する。
b) 障害のある学生に対する「未来先導的リーダー」養成
バリアフリー・UDの意義は当事者でしか分からないことが多い。そのため、質の高いバリアフリー・UD社会の構築を目指した提案やアドバイス、人材育成や普及・教育プログラムを開発できる障害のあるリーダー(ユーザーエキスパート)が求められている。本プログラムでは、当事者主導でワークショップ「手学問のすすめ」を企画・実施し、ユーザーエキスパートによる新しい体験型障害理解ワークショップを構築することができた。
(2) バリアフリー・UDの未来先導的リーダーの人材育成教育プログラムの開発
障害のある学生等への支援活動、学外のボランティア活動等で、実際に障害のある人の社会参加に関わることで、実践的な能力を身につけ、社会を構成する多様な人が相互に理解したうえで協働することの重要性を実感できる人材を育成するために、セミナー、ワークショップ、演習を実施した。バリアフリー・UDの先駆者による基礎セミナーを4回、バリアフリー・UDのトップランナーによる企業セミナーを4回、体験を通して学ぶバリアフリー・UDワークショップを1回、聴覚障害者支援のためのノートテイク演習を5回、視覚障害者支援のための対面朗読演習を2回、肢体不自由者と視覚障害者によるキャンパスバリアフリーチェックを1回実施した。
計画通り、以下のプログラムを実施した。セミナー・ワークショップへは672名の参加者があり、学部学生以外にも、幼稚舎の教員や児童、学外の障害領域の専門家、SF作家、ジャーナリスト等、多彩な人達の参加があった。なお、セミナーの開催においては、教職課程センターや学生総合センター就職・進路支援等と協力して企画・実施した。
(1) 塾内の障害学生に対する支援実践の試行
- ・聴覚障害のある学生への支援(ノートテイク等)
- ・視覚障害のある学生への支援(チューター等)
- ・発達障害のある学生への支援(プロンプト、ノートテイク等)
(2) バリアフリー・UDの先駆者による基礎セミナー
- 「浅野史郎氏が語る!21世紀の社会〜心のバリアフリー実現への助走〜」
講師:浅野 史郎氏(2007年7月9日)<参加者:99名> - 「“点字力”で切り開くフリーバリア社会−座頭市流フィールドワーカーのおもろい触文化論−」
講師:広瀬 浩二郎氏(2007年10月19日)<参加者:60名> - 「不可能を可能に変えるモノづくりの達人 加藤 源重:勇気は出すもの!行動は焦らず一歩から・・・」
講師:加藤 源重氏(2007年10月22日)<参加者:46名> - 「特別支援教育の基本構想と実際」
講師:石塚謙二氏、文部科学省初等中等教育局特別支援教育課特別支援教育調査官)(2007年12月11日)<参加者:66名>
(3) バリアフリー・UDのトップランナーによる企業セミナー
- 博報堂 「ユニバーサルデザインが切り開く未来−米国の現状と日本が目指すこと−」
講師:井上 滋樹、米・アダプティブ・エンバイロメンツ特別研究員(株式会社博報堂より出向中)、九州大学ユーザーサイエンス機構アドバイザー(2007年7月13日)<参加者:144名> - TOTO株式会社 「ユニバーサルデザインーひとにやさしいこころを持とう−」
講師:竜口 隆三氏、UD推進本部部長、初代UD研所長(2007年11月2日)<参加者:64名> - 松下電器産業株式会社 「松下電器のユニバーサルデザイン活動と展望・課題
講師:松岡 政治、関西渉外室技術渉外部長(2007年11月9日)<参加者:69名> - 三菱総合研究所 「誰もが暮らしやすい社会を目指して」
講師:篠田 徹氏、株式会社 三菱総合研究所 地域経営研究本部(2007年12月3日)<参加者:56名>
(4) 体験を通して学ぶバリアフリー・UDワークショップ
- だから今、「手学問のすゝめ」−あの手この手でタッチ、キャッチ、リッチ!−
(2007年10月20日)<参加者:68人>
本プログラムは、試行の段階を終え、本格実施のフェーズにある。すでに、障害のある生徒・学生・教職員の支援体制に関する構想は完成しており、国際的教養人にとって欠かすことのできないバリアフリー・UDの理念を持った先導的人材を育成するためのカリキュラム案の作成もできている。また、大学教育委員会においてバリアフリー/ユニバーサルデザインに関する教育、研究、社会貢献活動等の拠点となる「慶應義塾バリアフリー/ユニバーサルデザイン・センター(仮称)」を設置する提案書を提出した。さらに、急務の提案として、慶應義塾に在籍する学生が、障害の有無にかかわらず、教育を受けられるようにするための「慶應義塾障害学生支援委員会(仮称)」と「障害学生支援室(仮称)」を全塾的な組織として設置することも提案した。