2008年度公募プログラム

読書交流支援システムの開発と教育的利用実践

活動課題(テーマ)

中学生対象の読書指導授業を補完するためのシステムを開発し、導入する。具体的には以下のことを取り組む。

 

 

担当

中等部教諭 江波戸 愼

江波戸 愼本を活用した授業の効果を高める読書支援システムを構築する。参加者が書評を投稿し、他者はその閲覧とコメントができるという円形の読書コミュニティを形成する。中等部版ブックリスト・個別読書量管理機能も持つ。

主な活動メンバー

中等部教諭 土橋朝洋
静岡大学情報学部准教授 松澤芳昭
環境情報学部教授 大岩 元
株式会社デジタルノリッジ 西尾 陽

事務担当部門

中等部

実施状況

教育的利用実践までのとりくみ

  • 福岡県立大学准教授(元慶應義塾大学非常勤講師)水野邦太郎氏と慶應義塾大学環境情報学部大岩元教授の研究室で開発したシステム(Interactive Reading Community 以下旧IRC)を概ね継承し、大岩氏・デジタル・ノリッジ・静岡大学准教授松澤氏と4者で、2008年4月より中等部生に照準を当てた中等部版IRC の共同開発を開始した。
  • 4月~7月まで基本的コンセプトを討議するとともに、旧IRC を新しいシステムに移行させ、システムの安定化、高速化を実現した。また同時に洋書書誌データを作成するとともに、Amazon からのデータ入手システム構築に成功した。9月からは中等部版としてふさわしい機能やセキュリティシステムの開発・バグの修正に焦点をあて、作業を一旦完了させ、試運転の運びになった。

授業および家庭での実践

<洋書: 江波戸の2年生対象English 3 で、習熟度に合わせてクラス編成をした上で実践>
1st Stage: 11 月中旬に、中等部版IRC 授業内利用実践準備。リアクション・レポート下書き(ネットワーク上ではなく紙面で実践)。
2nd Stage: 11 月下旬から、中等部版IRC の授業内利用実践1回目。英語の授業で洋書から開始した(個別登録・リアクション・レポート投稿)。
3rd Stage: 12 月上旬に、中等部版IRC 授業内利用実践2回目。コメントをお互いに投稿させる。
4th Stage: 冬休みに、自主課題(家庭での実践)として、「リアクション・レポート投稿」「コメント投稿」を提起。
5th Stage: 1 月上旬に、中等部版IRC 授業内利用実践3回目。1 年次・2 年次の紙ベースで行った多読リポートを、「リアクション・レポート」としてIRC 上に投稿。
6th Stage: 1 月-3月自主課題(家庭での実践)として、「リアクション・レポート」「コメント」を投稿。

<和書:土橋の2・3年生対象選択授業『日本近代文学演習』で実践>
1st Stage: 11 月下旬に、中等部版IRC 授業内利用実践準備。リアクション・レポート下書き(ネットワーク上ではなく紙面で実践)。
2nd Stage: 1 月中旬に、中等部版IRC 授業内利用実践1回目。下書きしたレポートをIRC 上に反映させる。
3rd Stage:1 月下旬に、中等部版IRC 授業内利用実践2回目。コメントをお互いに投稿させる。

○旧IRC 内のデータは大学生向けで、中等部版IRC では中学生対象の和書・洋書両方を扱うので、図書データはかなり質的に変化する。和書は中等部での読書指導書『読書のすすめ』に収録してある図書をはじめ、Amazon からのデータを借入できることになったが、洋書に関しては、Amazon 以外にも、図書室内蔵書をはじめ英語学習初心者向けの新しい図書データを入力することになる。

成果・目標達成度

<システム開発>

  • 旧IRC はシステム上かなりバグが発生していたが、新しい中等部版IRC システムに移行後は、一部のバグを除き(これもすぐ解消させた)、安定性やセキュリティ上トラブルはなかった。
  • 単年度内に新しいシステムを企業・大学研究室・IT 技術者・中等部の4者で共同開発することは、意見交換・情報交換・打ち合わせにかなり時間がかかってしまった。


<教育的利用実践>

○洋書・和書共通

  • 授業内における対面型の交流を支援するメディアとしてIRC を有効的に利用できた。具体的には、通常のHR クラスをこえた交流を場所・時間に関係なく可能にした。これは家庭学習の活性化にもつながった。
  • Amazon とのリンクをはじめ、充実した図書の検索機能のおかげで、各自のレベルや興味にあった本を選ぶことができた。
  • リアクション・レポートやコメントの投稿をお互い閲覧可能にすることで、図書を選ぶ有効的判断材料にすることができた。
  • リーディングマラソン等各種ランキング機能は、読書への動機付けを増す一翼を担っている。
  • IT 技術の進歩を目の当たりにでき、実感させられた。

○洋書

  • 対象生徒を第2学年240 人全員にしたことで、全員が体験でき、IRC の利用量・利用頻度が非常に高いものになった。
  • 各種ランキング機能が、動機付け効果を持ち、競争的な要素もからみ、投稿の量が予想外に多かった。
  • 英語教育の観点だけでなく、読書指導の観点でも成功した。
  • 日常的に洋書になじむことで洋書への敷居が低くなり、洋書拒絶症はほとんどなくなった。

○和書

  • 参加者にとって、定期的な読書習慣を付け、かつ、読んだ本の内容を深く考えるのに貢献した。
  • 参加者間で読んだ本のレポートを見ることができるので、相手を意識した文章表現づくりをするのに役に立った。
  • 本のレポートやコメントを付け合う機能から、参加者が、他者の読んだ本に対する関心を大いに高めた。
  • このようなウェブ上のツールに対する生徒の興味・関心が非常に高く、熱中して取り組んでくれることが分かった。

今後の展望

  • 時間的に残されたシステム上のバグを随時解消していく。
  • 各種ページのデザインやマイページを子供たちの興味関心をひくようなデザインに改良していく。
  • 洋書・和書ともに、今後も継続して利用していく。
  • 読書の輪を他の学年、可能であれば、塾内の他の一貫教育校にも広げていく予定である。
  • 新年度からは年間を通した授業計画の中に組み込んでいく。

参加者の声

公募プログラム

中等部 N・R

IRC がはじまるまでは、授業や宿題でだされるから洋書を読んでいた。しかし、始まってからは洋書を自ら読むようになった。インターネットを利用するため、他のことを調べたり動画をみたりするついでにIRC を開ける。リアクション・レポートを作成する際、何をどこに書くかをきちんと欄があるためわかりやすい。そして手書きではなく、感想をタイプできるため楽である。何よりも素晴らしいと思うのは、他の人が書いた感想をもとに次の自分が読みたい本が決められることである。今後はクラスごとではなく慶應義塾全体で和書・洋書、分野を問わず様々な本の批評ができるともっと面白くなるのではないか。


中等部 S・S

IRC は、最初、とても難しそうなものだと思っていましたが、作業は意外に簡単で、ついつい沢山レビューを入れようと、頻繁に本を読むようになりました。IRC の最大の利点は、他人に紹介できて、更にコメントを付けられる所だと思います。これを通じて、自分の読書の幅を広げることができ、自分と好みの本が合う人との交流も図れます。この学習は、ただ単に本を読むだけでなく、その後の感想などを書くことも目的であるので、自分で考える力も必要となります。いかに他人に上手に紹介できるかが焦点となり、それを考えることも一つの学習だと思います。


中等部 N.S

IRC には初めあまり興味がありませんでしたが、ちょっとしたことで僕はIRC に没頭しました。毎日のように英語の絵本を図書室で借りてレポートを投稿した結果、23 冊分のレポートを書きました。このIRC をやることによって、英語に興味を持ちました。真面目なことがきらいな僕にはとてもあっていたと思います。しばらく読んでいると、内容が大分わかるようになり、英語力がついた気がしました。本を読む中で楽しみながら単語や文法も学ぶことができます。これからもIRC と英語の勉強、両方とも頑張って英語が簡単に話せるように、書けるようになりたいです。

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