2008年度公募プログラム

野外に飛び出せフィールドワーク "慶應義塾 夏の学校"

活動課題(テーマ)

キーワード:

フィールドワーク、環境問題、真鶴、一貫校連携合同臨海実習、西表島、亜熱帯圏、サンゴ礁、マングローブ林

目的:

この活動は、一貫校の生徒と全学部の学生に、野外でその環境の特色ある動植物に触れる機会を与え、その体験を通して生物と地球環境への関心と理解を育むとともに、観察から問題発見、解決へ導く実施能力、説明発表能力など、問題解決への総合能力を開発し、未来を先導する人物を育成しようとするものである。

背景:

地球温暖化、森林伐採、廃棄物処理、エネルギーの利用といったいわゆる環境問題は、現在地球規模で重要・危急に取り組むべき問題となっている。また、環境問題は政治・経済が複雑に絡んだ学際的な問題でもあり、学問分野を問わず、現代の若者は、今後これらの諸問題に真正面から直面することとなる。 そのため、早期から体験授業によって野外で直に野生動植物に触れ、自然の現状を知り、自然の大切さを体感しておくことは、本塾で学ぶ学生・生徒にとって非常に有用である。また、通常、キャンパスの位置や学事日程などにより、交流が難しい中・高校の一貫校の生徒と大学学部生もこのような野外実習の場所であればともに学ぶことが可能である。本申請はこの趣旨に理解をして頂いた横浜国大と琉球大の協力を仰ぎ、このような貴重な機会を作ることが可能となった。この体験授業を通して、本塾の生徒・学生が生物とそれを取り巻く環境への理解を深め、豊かな人間性を育むことが望まれる。

担当

法学部教授 秋山 豊子

秋山 豊子教室を飛び出して、野外で自分の目で生き物と環境を学ぶプログラムです。見る眼と問題を感じる心を発達させます。少しハードだけれど、楽しく学びたい生徒・学生のための「慶應義塾 夏の学校」です。http://web.hc.keio.ac.jp/~akiyama/ に紹介サイトがあります。

主な活動メンバー

法学部教授 秋山豊子
志木高等学校教諭 井澤智浩
普通部教諭 谷口真也
法学部助教 四宮 愛
日吉キャンパス特色GP研究員(商学部・助教・有期) 片田真一
静岡県立大学 食品栄養 助教 萱嶋泰成 (外部協力者)

事務担当部門

日吉事務センター

実施状況

このプログラムは、学生・生徒に希望を募って行う野外実習プログラムである。参加者が主体的にテーマを決め、協力してその地域の特徴的な動植物を観察する野外実習を行い、観察、採集、実験などを通して自然環境を実体験し、自然科学的視野を広げ、問題解決を探る力を養おうとするものである。内容的には3 つのプログラムがあり、ほぼ申請どおりに実施した。詳細は2009 年3 月に刊行された日吉紀要自然科学編45 号に報告されている。
1.一貫校合同の臨海実習 (真鶴:横浜国立大学理科教育実験施設)
2.西表島野外実習 (沖縄西表島:琉球大学熱帯生物圏研究センター西表実験所)
3.マングローブ林と環境問題に関する公開講座(琉球大西表実験所所長馬場繁幸教授による講演会)

1は、8 月16 日―18 日普通部生5 名、志木高生4 名、大学生5 名が参加し、4-5 名を1 班として1名の引率教員が担当し、テーマの設定と進め方、採集の仕方や実験方法の検討、まとめ方などを指導した。異年齢のグループが起居をともにし、ともに学び、教えあい、食事も自分達で分担して準備・片づけを行った。自然と義塾の本来の学塾たる雰囲気が生じ、和気藹々の中で実習が進められた。磯での採集やプランクトン採集については全教員が安全確認をしながら、採集指導を行った。最終日に班毎にプレゼンと質疑応答を行った。
2は、2008 年7 月29 日より8 月2 日まで4 泊5 日の日程で、琉球大学熱帯生物圏研究センター西表実験所にて、学生13 名で実施した。4 班に分け班ごとに1 名の教員が担当し、テーマの設定、現地での動植物の説明、毎日の観察結果のまとめ、個別テーマのまとめ方などを指導した。実際のプログラムは日吉紀要に詳細を記載した。マングローブ林では腰まで水につかりながら歩き、山地の亜熱帯林では特徴的な植物や昆虫などを観察し、特徴的な地形を観察し、サンゴ礁の海で潜り、実験所周囲(昼間と夜間)や星の観察も行った。プログラムは、好天に恵まれたため予定通り実施できた。前年度にできなかった夜間の生物観察、海岸でのゴミ拾い、カヌーでのマングローブ林の観察も行うことが出来た。最終日にプレゼンをし、後日レポートを提出させた。
3は、琉球大西表実験所の所長馬場繁幸教授に日吉キャンパスに来て公開講義を行っていただいたもので、熱帯・亜熱帯地域にある世界各国の温暖化とマングローブ林の問題について、多量のマングローブ林の木材や種子などの実物を会場に持ち込み実際に示しながら、マングローブ林から環境問題を考える問題提起がなされた。約45 名の学生の参加があり、実際に木材や種子を手にとって、その重さや密度、多様性などを実体験していた。

成果・目標達成度

  1. 真鶴の一貫校合同臨海実習については、ほぼ予定通りのプログラムを実施した。実習の成果は、最終日のプレゼンテーションで発表し、感想文でもまとめている。生徒・学生が異年齢にも拘らず、それぞれ興味深く実習を進められたことが大きな成果である。年齢に応じた問題認識がなされたことと、協力して同じテーマで実習をして何らかの方向付けされた結論を導くことに充分な達成感があったものと思われる。実習テーマのいくつかは、これまでの実習から引き継いだ連続したテーマとなっている。例えば、環境ホルモン汚染の影響とされるイボニシ(巻貝の一種)にみられる生殖器の異常については、採集場所ごとのサンプル数が増えてきたことと継続したデータの収集になっているため、結果により客観性が増して来た。
  2. 西表実習は、準備段階であった2007 年度のプログラムに加えて、夜間観察・カヌーでの観察などを行うことができた。これは、好天に恵まれたことと、レンタカーを増強したことにより、時間的な余裕ができたことが大きかった。そのため、実際のプログラムについては時間を多めに取ることができた。マングローブ林では、カヌーを使ったことにより、潮か満ちて深くなった水上から観察することができ、川上から下るにつれ、塩分濃度が濃くなり、マングローブ林の構成が変わってくることを実感した。一方、カヌーをこぐことに集中しすぎて、周囲を充分観察できなかった反省も見られた。しかし、それぞれの目標の達成度は、最終日のパワーポイントを使ったプレゼンと、レポート・アンケート結果によく現れており、いずれも「ハードだったが、楽しかった、充実していた。」と言う観想が多く見られた。参加者が撮影した写真は、まとめて動物編と人物編に分け、CD に記録して全員に配布した。
  3. 公開講座は、琉球大西表実験所の所長、馬場繁幸教授により、6 月17 日に行った。参加者の感想では、実際にマングローブ林を構成する木の材木や実、種子なども触れ、マングローブ林を通して環境問題を考えるきっかけになったと言う感想が多く出された。公開講座の目的は充分達せられたと考えられる

今後の展望

  1. 宿泊所、レンタカーなど移動手段、安全面から引率者が把握できる人数であることなどから学生数が限定され、学生・生徒の参加総数は真鶴の一貫校実習では最大30 名くらい、西表島実習では20 名位であること。
  2. フィールドワークに適したスポットが複数あり、観察ポイントが安全で近くにあること、実験が可能な実験室があること、安価で安全に宿泊できる宿泊所があること、移動の手段があることなどが必要条件となり、場所が限定されること。一貫校連携臨海実習については、継続して参加する学生・生徒の事を考慮すると、新鮮さを失わないためには、複数の場所を巡回して開催することも検討すべき価値があるように思われる。
  3. この2 つの実習プログラムを安定的に継続させるには、学生への旅費の支援、引率者の旅費、協力者への謝金、実習に必要な試薬・器材・雑物などの費用がほぼ200 万円近くかかっている。この費用をどのように継続的に準備するのかが今後の問題である。特に西表島実習は、学生にも好評で非常に有効であり、4 泊5 日の日程と内容の充実度からすると、以前、秋山が担当した理工学部の臨海実習(集中;4 泊5 日で2 単位)に比較しても、充分2 単位の授業に匹敵するものである。しかし、もし正規の授業として継続して実施する事を検討する場合もこの経費の原資を獲得しておく必要があると思われる。

参加者の声

公募プログラム

普通部 福家優太朗(真鶴の一貫校連携臨海実習に参加)

自分の好きな事を3 日間も連続で出来楽しかった。自分の知らないもの(ヒラムシとか)を学べてとてもよかったと思う。なかなか大学生の人や高校の人と話をする機会もないのでとてもためになった。


志木高等学校 大友 耀 (真鶴の一貫校連携臨海実習に参加)

初めての参加であったが、とても楽しく充実した2 泊3 日だった。海が近いと言う最良条件の下で、詳しい実験観察ができると思った。始めてみるものでも「なぜ」を考え、突き詰めるのはとても楽しかった。特に、その「なぜ」が生き物にとって生活して行く上で欠かせないものになっていることが分かるとなおさら突き詰めたくなった。自分で積極的に進んで実験や観察をするのが大切で、また、自然と進んでやってみたいと思った。3 日間ありがとうございました。


文学部 谷藤麻衣子(西表実習に参加)

今回の実習は自分にとってかなりプラスになるものであった。もともと環境問題や生態系、またそれに関連する経済市場のあり方について興味があったが、今回自ら西表島(亜熱帯地域)の自然を体験することでその土地独自の自然のサイクルがはっきりとわかった。しかし、海は沖縄だけではない。沖縄の海がきれいで自然が豊であることは重要だが、沖縄の海(現在きれいな海)だけがまもられていけばいいという話にはならない。海は一つである。地球も一つであるし生息する生物がいてこそ生態系のシステムは成り立つ。そのことを忘れてはならないのだということを強く再認識するとともに多くの人と共有していかなければならないことだと感じることができた。とても良い経験ができたのでただの経験として終わらせないように今後の生活、また自分の勉強に活かしていきたいと思った。最後にお世話になった全ての方に感謝したい。

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