2010年度 未来先導チェアシップ講座

会計研究の課題(Topics on Accounting Research)(大和証券チェアシップ講座)

コーディネーター

慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授 太田康広

招聘者

Shyam Sunder, James L. Frank Professor of Accounting, Economics and Finance, School of Management, Yale University.

講義内容

 会計研究だけでなく,経済学・ファイナンスの分野に及ぶ国際的第一級の業績があり,我が国ではむしろ実験経済学者として著名なYale大学のShyam Sunder教授を招聘し,「会計研究の課題」というテーマで全18回の講義をしていただいた。
 具体的には,(1)組織を運営するためのメカニズムとしての会計の役割,(2)会計システムにおいて,従業員,顧客,経営者及び株主といった様々なステーク・ホルダーの果たす役割,(3)資本市場,労働市場及び製品市場における会計の役割,(4)会計システムの発展と選択,(5)財務報告における会計基準や社会規範の果たす役割,(6)私的財を生産する組織と公共財を生産する組織の会計システムや内部統制システムの違い,(7)グローバルな金融危機と財務報告の関連,(8)IFRSのアドプション問題など,国内基準とグローバル基準の制度的詳細,(9)会計方針の形成などのトピックが取り上げられた。
 履修登録者は,「財務報告や監査の問題を取り上げて,その問題を社会の様々な構成員の観点から分析すること」を課題としてレポートを提出することが義務づけられている。テーマの選択にあたっては,Sunder教授から,詳細な個人指導があった。
 Sunder教授には,通常の計量経済学的手法を用いた実証研究だけでなく,実験経済学的手法を用いた実証研究や,コンピュータ・シミュレーションなどの計算経済学的手法を用いた研究を行なうなど,手法的にも既存研究の枠を超えた業績がある。研究対象も狭く会計にかぎらず,資本市場研究や経済学の基礎研究にまで及んでいる。このようなSunder教授の関心の広さを反映して,講義で扱うトピックやアプローチは多岐に渡った。企業などの組織を扱う場合も,標準的なプリンシパル・エージェント・モデルが想定するように,プリンシパルにすべての交渉力を与えてしまうことなく,広く利害関係者が相互作用する結節点として理解しようとする傾向が顕著に認められた。
 この科目には,経営管理研究科修士課程の学生だけでなく,同研究科博士課程の学生,同研究科教員のほか,実務家や他大学の研究者・大学院生まで参加し,活発な議論が行なわれた。全講義に同時通訳を導入したので,英語での議論を基調としつつも,英語での表現が難しい突っ込んだ話題や実務的に高度な論点などについても同時通訳を介して,十分に議論し尽くせたように思う。
 世界の第一線で活躍する研究者の謦咳に接することができ,参加者は,「どのような問題を重要と考えるか」「ある問題にどのようにアプローチするか」「どれくらいの証拠が集まったとき,わかったと考えるか」といった書籍や論文からでは得られない知見を得られたものと考える。
 このような貴重な機会を与えていただいた,資金提供者の方に深く感謝する。

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