2009年度 未来先導チェアシップ講座

文明のサイヤンス —人文・社会科学と古典的教養の新たな継続—
(大和証券寄付講座)

講義の趣旨

近代社会は、人間と世界のあるべき姿を文明という名に託して追求しつづけてきた。近代社会を支えた古典的教養は、この文明をサイエンスすることを根元的課題としていたともいえる。しかし現代において、世界観の混迷にもかかわらず、学問は、細分化と技術化により、時としてその課題を忘れがちである。

そのような現状の中で、人文・社会科学に蓄積された高度な古典的教養の力は、今、あらためて見直さなければならない。さまざまな国や地域で蓄積されてきた伝統は、文化の多様性の源泉であるとともに、人類協調のよりどころとなるべき共通の財産である。人文・社会科学はそのような人類の蓄積を研究領野としてきたのである。

福澤諭吉は『文明論之概略』において、文明を「外あらわるる事物」と「内に存する精神」の二面から見た。「外にあらわるる事物」は、鉄道、通信、医学、工業技術のような、主に自然科学が生み出す成果である。しかし、求めるのがより難しいものは「内に存する精神」であり、その分析と追求こそが科学すなわち福澤の発音で言う「サイヤンス」の喫緊の課題であると考えた。現代の人文・社会科学は、福澤の提起したこの課題にどこまで答えられているのだろうか。

以上のような観点から本講義においては、文明を「サイヤンス」するに当たっての古典的教養の意味を、人文・社会科学の多様な分野における最先端の知見を通して問い直すことを目的とした。

講義は、比較的分野の近い、海外から招聘した講師と国際的に評価されている日本人研究者とが関連して講義を担当することで、義塾における人文・社会科学の研究が学問の国際的ネットワークに連なるものであることをあらためて見直す機会を提供するとともに、若い学徒が学問を志すに際して、その学問の歴史的社会的な意味を自覚する機会となったと言えるだろう。

コーディネーター

文学研究科 中川 純男、経済学研究科 小室 正紀、社会学研究科 杉浦 章介

招聘者ならびに講義担当者

Alain Corbin(アラン・コルバン)<ソルボンヌ大学教授>

主領域:人文科学・社会科学にまたがる総合的な視点からの感性の歴史学など。

Bertram Schefold(ベルトラム・シェフォールト)<ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学教授>

主領域:経済学史。前近代の経済思想を専門とする。

Alan Mcfarlane(アラン・マクファーレン) <ケンブリッジ大学教授>

主領域:ヨーロッパ経済学史。日本や中国を含む世界の前近代の経済思想。

Neil McLynn(ニール・マクリン) <オックスフォード大学教授>

主領域:西洋古典学。古代教会史、とくに東西教会におけるキリスト教と政治。

小倉 孝誠 <慶應義塾大学文学部教授>

主領域:19世紀フランスにおける文学と社会、アラン・コルバンの訳もある。

鷲見 洋一 <慶應義塾大学名誉教授>

主領域:百科全書派など、フランスやイタリアにおける18世紀啓蒙時代における知。

斎藤 修 <一橋大学経済研究所教授>

主領域:比較経済史、歴史人口学。

池田 幸弘 <慶應義塾大学経済学教授>

主領域:オーストリア経済学史。

西村 太良 <慶應義塾大学教授・常任理事>

主領域:西洋古典学、ギリシア文学。

大芝 芳弘 <首都大学東京・教授>

主領域:西洋古典学、ラテン文学。

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