2022年度公募プログラム

[理工学部]

Keio-Stanford LifeWorks Program

活動代表者

理工学部専任講師 井本由紀

井本由紀Keio-Stanford LifeWorksでは、演劇的な身体表現やマインドフルネスの実践を、広大で自然豊かなスタンフォード大学のキャンパスとその近辺で、日米の学生が1週間かけて学んでいきます。人間として他者と出会い、繋がり、自分をよりよく知るためのプログラムです。

活動内容

本プログラムは、多様な背景をもつ日米の参加学生が、スタンフォードキャンパス内で共に生活し、内省的なワークを行い、フィールドワークを通して学び、演劇的な共同創作をすることで、知識・言語・文化の境界を超えた、心身レベルでの相互理解を深める経験を得る機会となった。慶應大学からは6名の学生が選抜され、スタンフォード大学からは8名の学生が集まった。

プログラムの初日はスタンフォード大学心理学者のスティーブン・マーフィー重松氏による、自己受容と他者受容を促すためのワークショップが行われた。2日目は元慶應大学教授(異文化間カウンセリング)の手塚千鶴子氏による「内観」のレクチャーとワークショップが実施された。学生たちは、内観の時間の中で親子関係を振り返り、その後にコラージュを作成し、お互いのコラージュを見せ合いながら、自身の生い立ちや記憶や感情を言葉にしていった。3日目は、サンノゼ市のジャパンタウンにてフィールドワークを行なった。日系アメリカ人歴史博物館を訪れ、日系人コミュニティの文化継承活動である和太鼓のワークショップを体験することで、自分とつながる他者の経験に寄り添い、歴史を感情・感覚から理解することを試みた。4日目は、キャンパス内のスタジオで、小木戸利光氏(演劇教育)の指導のもと、ゆっくりと身体をほぐすムーヴメントワークを経て、非言語的身体表現でのパフォーマンス創りに取り組んだ。3つのグループに分かれ、与えられたテーマに基づき演劇作品を練り上げ、5日目に最終発表を行なった。最終パフォーマンス終演直後、参加者全員で円になると、深い対話の時間が自ずと生まれた。ぽつぽつと、演劇作品を通して浮かび上がってきていた感情が言葉として現れ、参加者それぞれの奥底の想いや経験が輪の中へ吐露されていった。

以下は、ある参加学生がプログラムホームページのブログに記述した振り返りである。ここからもプログラムではいかに学生同士が心を開き、自己と他者の受容を体験したかが読み取れる。

「ところで、この5日間を支配した空気とは、なんともいえないピースフルなものであった。和を以て貴しとなす日本ではなく、若き日の福澤先生が後に演舌と訳されたディベート文化の支配するアメリカで、である。とはいえ、このような文化の対比を持ち出すのは不適切かもしれない。そこに存在したピースフルな空気とは、決してうわべだけのものではなかった。もちろん、初めは傷つく恐怖や気恥ずかしさといった壁が阻んではいたが、先生方の素晴らしい指導や参加者の努力により、全く異質なバックグラウンドを持つ赤の他人同士の寄せ集めと言った様相は非常に短期間で消え失せ、2日目には既にピースフルな空気が漂い、3日目には既に支配的な空気と化し、最終日には一切の躊躇も生じさせないほどに強固なものとなった。自らが相手のありのままの全てを受け入れ尊重し、相手も同様に自らに接してくれるという深い信頼が日米の学生を一人残らず取り囲んだ。特に今の若い世代は自らが傷つくことが非常に不得手で、相手との微妙な距離感を保ったり、感情に深く踏み込まないと言ったバリアを取りがちとも言われる。しかし、前述の信頼が支配する輪のなかにおいては、誰もが自らを深い次元でさらすことを躊躇せず、自己のヴァルネラビリティーをそのままにした。時には涙するほど、自己や他者の内心奥深くまで触れあい、つながったのである。」

本ワークショップは、参加者それぞれが自身のアイデンティティを振り返り、様々な立場から世界を捉え、「共感」は難しくとも他者を「理解しよう」と寄り添い、心身を伴うコミュニケーションを重ね、世界観を(再)構築するきっかけとなったと言えるだろう。

Keio Stanford LifeWorks Program
https://www.keiolifeworksprogram.com

参加者の声

公募プログラム

理工学部3年

Keio LifeWorks Programは 多様なバックグラウンドを持つ学生たち、そして他分野のプロフェッショナルである先生方とともに、“Who am I?” という問いに対して、時間をかけて、自分の心に従い、多角的に向き合うことのでできる時間でした。

移民の親をもち、移民問題を解決できる大統領になりたいというラテン系の学生、育った地域が紛争下であり世界規模の "Peace"そして "Love"に向き合うミャンマー出身の学生、そのほかケニア、中国、アメリカ、韓国といった国籍だけでもグローバルに富み、多様な視点から、アントレプレナーシップを持って取り組んでいる学生たちとの日々を通して、”自分は何者なのか” 深く考えました。彼らのように波乱に富んだ経験があるわけではない。不自由なく恵まれた環境で育った私が、社会に対してできることはなんだろうか。この問いが頭の中で駆け巡る中、このプログラムを通して、気づいたことがあります。それは、この問いを考える上での自分が捉える "社会"が広がったこと、そして「自分らしく」取り組むという自分軸の意識が変化したことです。

私は日本を含め世界の教育にサイエンスの力で”ハートフルネス”を取り戻したい、インパクトを与えたいと考えています。このプログラムを通して、他者と比較するのではなく、他者との交わりの中で自分と向き合うことで、どうやって”自分らしく”実行していくことができるか、心の声に耳を傾けることができたと思います。

今回の学びは一見、私が所属している理工学部とは関係がないように思えるかもしれません。しかし学問をいかに社会実装できるか、これもまた理工学部、特に私の所属するシステムデザイン工学科において必要とされることです。スタンフォード大学の重松教授は、マインドフルネスとハートフルネスの違いを語られました。何かを成し遂げる時、”マインド”だけではなく、”ハート”が必要だと。脳や認知能力、合理的でロジカルな思考をする機能としての”マインド”だけでは、本当に社会に必要とされているもの、真の問題を解決するのに十分ではないでしょう。テクノロジーと人が共存する社会で、人の心、内なるものを豊かにし、本当に価値あるものを作り、人の心に届けるには、”ハート”が欠かせないということです。このプログラムで気づくことのできた”マインドフルネス”、そして”ハートフルネス”を今後も実践していくとともに、これからのより専門性の高い学びと掛け合わせ、社会に価値のあるものを作っていきたいです。


商学部4年

Keio-Stanford LifeWorks Programを通じて、生まれた自己変容について記述したい。

1つ目に、自分自身をよく知り、大事にすることができるようになった。プログラムに参加する前の私は、もっぱら他者や社会に貢献することに関心があり、自分の気持ちを言葉にしなかったり、あえて見て見ぬふりをしたりしていた。それによって、気づいたら自分がやっていることと、やりたいことに乖離が生まれ苦しんだり、あるいはなんとなく“辛い“”つまらない“といった感情を抱えることが多くあった。しかし、プログラムを通じて、スタンフォードの学生や先生方と一緒に、演劇手法を用いた身体的実践を体験することにより、自分の身体や流れゆく感情の揺れに注目することができるようになった。プログラム終了後、大学生活や企業で働く中で高いストレス負荷がかかっている状況があっても、そのときの自分の身体の状態や心に注目することによって、状況に応じた適切な対応を以前より格段に取ることができるようになった。

2つ目に、他者とコミュニケーションを取る際に、余裕が生まれ、より寛容に柔らかくコミュニケーションをとることができるようになった。プログラム前では、他者の良いところを見つけるのに苦しんだり、自分の状況を理解するのに必死で他者のことを考えられなったりして、コミュニケーションをうまく取れないことがあった。しかし、プログラムの“シアターワーク“において、スタンフォード大の学生という自分とは異なるバックグラウンドをもつ他者であっても、お互いの心や身体に気づき、協同し、心を通わせ合うことができたことにより、自信が生まれた。プログラム後、私は企業でメンバーをマネジメントする役割を任されているが、メンバーの良いところを引き出したり、感情をオープンにしあったりして、以前より適切にコミュニケーションをとることができ、以前より他者と協働する能力が向上していると他のメンバーから指摘されることも多々発生するようになった。

私は現在、上場企業で経営に携わりつつ、事業家として事業の推進を担当しているが、自分自身の経営・マネジメント能力・リーダーシップが向上したのは、このプログラムのおかげだと思っている。またそれ以上に、これまで気づかなかったせかいの美しさに、気づくことができ、私の生はより一層豊かになった。これからも、今回のプログラムでの学びを大事にして生きていきたい。

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